「暑いね…」
クーラーが効いているはずの部屋でぽつりと呟く。それが合図かのように彼はまた私に覆いかぶさる。

「美香はだれかとつきあったりしないの?」
「あたしはいいやあ。面倒くさいし。ところで圭子は大くんとはどうなのー?」
「最近、飽きちゃったかな?倦怠期ってやつ?」
「そーなんだー」

美香は笑いながら同じクラスの友達の話を聞く。
友達なんて、クラスから浮かないための道具でしかないことなんてみんなわかってる。
圭子ももちろんそうだ。だから、踏み込まない。
ゲームをしている。

あたしは大くんとも寝てる。
初めて誘ってきたのはあいつのほうからだ。
あたしも暇だったからそれに乗ってあげただけ。
ちょうど圭子が大と倦怠期なんだよねーといい始めた時だった。


「圭子と別れたら俺と付き合ってくれる?」
大が先日送ってきたメールだ。もちろん受験勉強にこれ以上時間を割くつもりのなかったあたしは、「いまのままでいい」と返した。

圭子と大が別れたと聞いた。
「聞いてよ、あいつ浮気してたんだよ」
今にも泣きそうな声であたしに訴えかける。
「浮気相手のほうが好きになったから別れてくれって」
そういった瞬間圭子の涙腺は崩壊した。きれいな水滴が化粧を流しとっていく。
それをあたしはただただ眺めていた。


大元大樹は身長が154センチしかないあたしにとってはすごく大きい。 身長だけが大きいのではないかもしれない。
最近、圭子と別れてからバイトでためた金で買ったって言って安物の指輪をくれた。
そんなのは初めてだったからいささか驚いたが、それでも大に恋する気は全然起きない。 そんなあたしより圭子のほうが何倍も可愛いのに。
でも、大はつけててくれるだけで満足だから、とにくい言葉を残していった。

でも、あたし、好きになれないの。もちろんあたしは面倒なことを自ら招く趣味は持ってないから大人たちがしているように受け取る。
そうしてあたしの眼はどんどん汚れていく。