「赤の方がお似合いでございます」
「じゃあ、赤で…」
「かしこまりました。寸法を測らせて頂きます。失礼します」
治安悪化の影響で仕立て屋をリッドの屋敷に呼んで寸法を測らせている。セシリアは淡い紫が気に入ったのだが、合わせてみると似合わず、真紅の方の色のドレスに決めた。セシリアは少しワクワクしていた。肩書はリッドの妻という肩書で出席するが、きれいなドレスを想像するだけで気分が明るくなってくる。「失礼しました」仕立て屋は帰って行った出来上がるのは三日後だという。
コンコンとリッドの職務室の扉が叩かれた。リッドは扉に目を向けず淡々と書類にサインしながら、どうぞ、と一言言った。ガチャリ、と音がして入ってきたのは軍の最高位である元帥が入ってきた。リッドは慌てて席を立ち敬礼をした。
「かまわんよ」
「はっ。何か御用ですか」
「君、結婚したそうだね」
「はぁ」
「奥方も来るのだろう?それにしてもウィルトン大佐はパーティーには欠席するそうだ。残念だ」
「ご用件は、説得、ですか?」
「いやいや、ただの雑談だよ…。それよりホプキンズ家のお嬢様は見つかったかね?」
「いえ、まだ…。そのような情報ならウィルトン大佐の方に聞いた方がよろしいのではないでしょうか?」
「はははは、その通りだ。ウィルトン女史には危険な匂いが付きまとっているからなかなか難しいね。大切な情報はおちおち渡したくない」
「はっ、そうでしたか。ウィルトン大佐がなにか怪しい動きでも?」
「ここだけの話だが、テロリスト集団とつながっているような動きをしててね」
君も気を付けてくれたまえ、と言って元帥はリッドの職務室を出て行った。10年前、王政に反対するグループのテロリスト集団が首都に攻撃を仕掛けてきた。街は焼け野原になった。きっかけは高い失業率とインフレがあり、少数民族弾圧政策をとったことだ。これがきっかけで起こった戦争によってリッドとエミリアは家族を失った。それから二人は軍に入り権力を持つことで復讐をしようと誓い合った。ここでエミリアがテロリスト集団と関係を持つ危険性があるのは簡単に予測できる。彼女は人殺しと軍を嫌って情報部という特殊部隊の大佐まで上りつめた。一度、エミリアと話さないといけないとリッドは考えた。
女を抱いてるときは何もかも忘れれるから好きだ、とリッドは思う。今日も娼館に行ってマリアーヌを抱いた。何もかも忘れたかった。元帥のせいだ。10年前のことに自分もとらわれている。18の時、恋をしていた。軍もテロも何もかも縁がなく慎ましい生活だったが生き生きしていた。テロリストが憎くて軍に入る奴は今でもたくさんいる。エミリアと話さなくてはいけないと思う。けれど、話しても仕方ないとも思う。彼女はやると決めたら曲げない人間だ。
「ねえ、何考えてんの?」
「色々と」
「教えてくれないのね、わかった。聞かない」
「マリアーヌ、助かる」
「…そういえば、ちょっと前にリッドの、奥さんを探してママに聞いた人がいたよ。ママは知らないと言ってたよ…ね、私じゃ役に立てない?」
「こうして抱かせてくれるだけで十分さ。じゃあ帰る」
「動きバレれるぞ」
「だから?」
「危険だからこれ以上はやめろ」
「出世の鬼さんが心配するほどのことでもない。逆に証拠を見せてみたらどうだ?」
「この国は腐ってる」
「ああ、だがテロリストの味方をしても何も変わらない。憎しみの連鎖が続いていくだけだ」
エミリアは、リッドにしてはいいこと言うねと言って、乾いた口調で笑いながら酒の入ったっグラスを空にした。