「ただいま」
「お帰りなさいませ」
「セシリア、起きてたのかい」
「悪かったですか?」
セシリアは緊張しながら尋ねる。私を買った目的が分からない。だからだ、緊張するのは。
「悪かないよ。ただ待たせてすまなかったね」
「そんなこと、無いです」
「そうか。ところでパーティー用のドレスは買ったのかい?」
「前日に届くと仕立屋が言っておりました」
「アーデレ、そうか。今日はもう休んでいい」
「承知致しました。おやすみなさいませ」
アーデレは蝋燭を片手に屋敷の奥に消えて行った。
「なんで、わたしを買ったんですか…?」
「知らなくてもいい。その質問は無しだ。強いて言うなら、ひと目惚れかな」
また誤魔化された。
「じゃあ何で抱こうとしないのですか?」
「したくないんだろ?無理することはないよ」
「…わたしは、あなたに買われました」
二人っきりの寝室でセシリアは下着姿になった。本当はどうかなんてわからなくなっていた。けれど、何も触れられない日々はさみしかった。おいで、とベットの方に誘導されて、セシリアはリッドに抱かれた。セシリアは一生誤魔化されていてもいっそのこと、それがいいと思った。
次の日、リッドが家から出て行った後に起きた。アーデレが教えてくれた。
「ね、散歩とかに出かけない?」
「旦那様から外には出さないようにときつく言われておりますので、御用ならこのアーデレが代わりに致します」
「そう…じゃあ、花を買ってきてくれない?」
「花、でございますか?」
「ええ、ちょっと飾りたいなと思って…もしかして、ダメ?」
「いいえ、では買に行って参ります。くれぐれも外出なさらぬように」
「…わかったわ」
アーデレは、まったくリッド様はセシリアのどこに魅かれたのか疑問に思う。まるで何も知らないお嬢様だ。花屋までは少しかかる。アーデレはセシリアのことをあまり信用していない。アーデレは約十年前のことを思い出す父は反体制派に反対する王国軍の部隊に、私たち家族を捨てて志願していった。母はそれからどちらか側の兵士に凌辱されて自ら命を絶った。私はそういう子供たちが創っていたグループに入って窃盗を繰り返してきた。生きるために。相手を殺すすべも一通り身につけてきた。そんなある日、リッド様の財布をすろうとしたところを見つかり、それから家政婦として住まして頂いてる。これ以上ご迷惑をかけないためには、グループを抜けることだった。また、家政婦として働くための条件でもあった。抜けるのは簡単であったが、そういうものなのか、と寂しさもあった。
「バラを10本ください」
「はいよ」
「アーデレ?」
懐かしい声がアーデレを読んだ。その拍子にバラの花束を落としてしまった。だれかと思い声の主を見てみるとジョンだった。グループ「H.K」にいたころに付き合ってた彼だった。
「組織を抜けたってマジかよ」
「マジよ」
「…この間、ジャスパーがアーデレに邪魔されたと言ってたけご、本当に抜けてたとわな」
「…みんな、元気?」
「答えれない。もうお前はあっち側の人間になった…組織を抜けるってそういうことだしな」
じゃあ話しても無駄ね、といこうとしたら、俺はおまえが組織に戻ることをいつでも歓迎するから、と言われた。
あたしの居場所はリッド様が住む家でいいのかしら、と最近思う。あたしがすりを止めた少年、ジャズパーなんかは絶対許さない人たちもいるのに、みんなのところに戻れるならと、心が揺れてしまう。
「バラを10本程度買ってきましたけれどよろしかったでしょうか」
「ありがとう」
セシリアはアーデレからバラを受け取り花瓶に活けようとしたが、とげに刺さってしまった拍子に痛いっと声が漏れた。奥様、あとは私がやりますので。とアーデレはセシリアからバラの花束を取り上げた。
リッドはセシリアをあの夜買ったことを間違いだったのかと後悔する思いが頭をよぎっている。なんたってホプキンズ家の人間だ。今回の動乱もホプキンズ家を崇める連中が大きな原因として挙げられている。大きなカードになるかもしれないと思い上層部に確保されるより先に結婚した。明日のパーティーに本当に連れて行っていいのか疑問だ。上層部はセシリアを諦めたりしないだおう。しかし、簡単にも手出しできなくなるはずだ。幸いなことに顔は知られていない。