「行ってらっしゃいませ」

アーデレは夜にパーティーに出かける二人を見送った。最近はあまりセシリアがいるので独りでいるんのはにさしぶりだ、と思った。嫌ではないけれど何かが足りない気がした。

馬車がことこと石畳の道を歩む。パーティー会場に向かうセシリアとリッドの二人には会話がない。別にお互い嫌っているわけではないが、気まずいのだ、とセシリアは思う。昨日初めて結ばれたが、それでもやはり緊張するな、と思う。それはとても失礼な事だ、そう思う。リッドは昨日の事を丁寧に思い出している。セシリアは覚えてないかも知れないが、初めて父に連れられてまだ没落する前のホプキンズ家に行き 会った事を思い出す。目の前にいる女性はセシリアだがあの時と彼女の雰囲気は変わってないと、昔をなぞりながら考える。そうすること1時間、馬車はようやく止まる。

会場にセシリアは圧倒された。天井には大きなシャンデリア。贅沢をつくした調度品。それに山の様な料理。パーティーには何度か出席した事があるが、ここま で大規模で豪華なパーティーには出席した事がない。セシリアは驚き、すごいですね、と言った。リッドはそんなセシリアを面白いと思った。リッドにとってはもう慣れたことだ。

「カッセル大佐、よく来てくれたね」
「は、元帥主催のパーティーならば伺うしかないではありませんか」
「ウィルトン大佐も君の様ならよかったのにな」

元帥はそういってシャンパンを煽る。リッドはやはりエミリアは来なかったか、 と思う。

「それより、そちらの可愛いお嬢さんはどちらかな?」
「妻のセシリアです」
「セシリア…どこかで聞いた事があるような…もしかしてホプキンズ家のお嬢さんか」
「元帥、同じ名前の人間なんて腐る程いますよ」
「そうだな」

ハハハ、と豪華に笑い、楽しんでいってくれと言い離れて言った。

「リッド、来てたのか」
「ああ。エミリア、君が来るとは思わなかったな」
「ふん、ほとんど命令だったろ。…君が例の子か。エミリアだ、よろしく」
「セシリアです」

エミリアとセシリアは握手をした。エミリアはリッドの趣味と何かが違うと感じた。お嬢様、という言葉がぴったりな人だと、エミリアは思った。

「あの、リッドさん、私が来てもよかったんでしょうか?出生をごまかすのは…」
「そうだな。君がホプキンズ家の人間だとバレない様にしてくれ」

あと、さん付けをやめてリッドと呼んでくれと言いたかったが、あとでいいかと思い、咽から出かかった言葉を飲み込んだ。

「あれがセシリア・ホプキンズ?」
「そうみたい」
「どうする?とりあえず誘拐?」

お姉さんは過激だね、とリック・ハインセルはクスクスと笑う。

「過激ではないわ。カッセルからホプキンズを離す事が命令でしょ」

誘拐しかないじゃない、とエレア・ハインセルは拗ねた様に言った。会場には優雅な雰囲気で皆ダンスを踊っていた。そのなかでもリッドとセシリアは目立っていた。特にセシリアは見たことがない人間ということで噂になっていた。出世頭の、あのリッド・カッセル大佐の妻ということで。
「リッドさん、何か目立ってません?」
「気のせいだよ。それか君の美しさに興味があるのかもね。ところで、夫婦なんだからリッド、と呼んでくれて構わない」

そういうとセシリアは顔を赤めた。リッドはそれを見て、うぶだな、と思う。世間知らずのお嬢様という印象は初めて娼館で対面したときから変わらず、大切に育てられてきた証拠に無性に腹立たしさを覚えてしまう。バン、と大きな音がしたと思ったら黒煙が入ってきた。爆発だ。叫び声が聞こえる。リッドは尽かさずセシリアの手を取って玄関に向かう。そうしながら、銃をセットしていつでも打てる状態にする。バン、バン、と二発リッドの銃が鳴った。その音を聞くたびにセシリアは叫びそうになった。二人は闇の中、手をつないでリッドの家まで無言で歩き続けた。

エレアは黒煙が部屋に充満したとき、セシリアを誘拐するチャンスだと思った。しかし、ほかの銃声も聞こえてきた時点で元帥を守る役目に切り替えをしなければいけなかった。これはテロだ。

エミリアは作戦は完璧だと思った。しかし、リッドが作戦の不安定要素でもあった。彼はホプキンズを助けるだろう。そうしたら彼と対峙せざるを得ないかもしれないという迷いがあった。だからかもしれない。彼女は元帥殺害に全身全霊をかけた。ホプキンスか元帥か目標を絞る必要があった。元帥には二人のボディーガードがいるのは知っていたが、それは元帥の危機意識のなさだと思っていたが、その強さにあった。結局、元帥は殺せず作戦は失敗した。それでも何人かの目標を殺すことは出来た。しかし、エミリアは悔しさでいっぱいであった。