「お前が出来ない嫁だからあの子」
「母さん、そんな話は今はいいだろ!今は誘拐犯から孝介を取り戻すのが先決だ」
「あたしの後を継ぐのは孝介じゃなくともお前でいいと思ってるのさ」
「こ、孝介、あの子の命は」
咲子には御祖母様が自分の孫の命を捨てるような言葉を口に出した事が恐ろしく、震える事しか出来ない。康介と都美子は急いで寝室に向かった。
「何があったんですか」
「ふん」
「母さん、すみません…なんでもありません」
「明日には警察を必ず呼びますからね!お金は鐚一文だしません」
そう宣言し2階へと老女は歩いて行った。何があったんですか、と康介は重ねるて尋ねた。咲子をベッドに寝かせたあと、俊明は先程の出来事を康介たちに話した。
「お昼でもどうぞ」
「頂きます…。頂いたら僕たちはその愛人とやらを探してみようと思います。孝介君がご主人と消えたのならその愛人がなにか知っているかも知れません。その前に、ご主人の書斎などを見せて頂けませんか」
「…そうですね。では早速」
お昼ご飯にだされた昼食を黙って食べ終わり、三人は利夫の書斎に向かった。
「ここがそうです」
そう俊明に通された部屋は小綺麗な部屋だった。
「意外でしょう…。咲子さんは毎朝、利夫…兄なんですけど、兄がいつ帰って来ても言いように掃除しているんです」
康介は咲子を思うと腹が立った。こうなれば一刻も早く利夫と孝介を探し出し、咲子の心労を取り除いてやりたいと強く思った。
「書斎をいじっても大丈夫ですか?」
「どうぞ」
康介は、机の引き出しを全部あけて中身を確認したり、本の間に何かないかと懸命に探した。都美子は無表情でその姿を見ていた。
「あった」
「何がです?」
都美子は康介の側に寄った。手帳に住所が載っているが、どの住所が彼女の住所かわからない上にもしかしたら関係のない住所かもしれない、という事だ。
「俊明さん、電話を貸して頂けませんか」
「いいですが…何か分かったんですか」
「それはハッキリとは言えませんが…必ずつかんでみせます。」
康介は俊明に連れられて電話がある部屋に連れられて行った。都美子は康介が見つけた手帳をみた。そこには細かくタイムスケジュールが書かれていたが、しかも第二、第三火曜日だけ午後のスケジュールが書かれていなかった。几帳面な人だったのだろう。部屋に飾ったカレンダーにもその日だけ丸が書かれていた。愛人に会ってたなら、その日だと都美子は推測した。その頃康介はしっかりと磨き上げられた黒電話で佐々木賢三を呼びだしていた。賢三は警察官だかあまりのやる気のなさに現場ではなく書類整理に配属されている。それでも首にならないのは彼が効率的に仕事をこなすことができ、集中力でいくつかの事件解決に貢献してきたからだ。
「もしもし佐々木ですが」
「佐々木か。今から言う住所に来てくれ。緊急なんだ」
「あーそう。緊急事態なら警察にお電話を」