「お前だって警察官だろ。失踪者を捜したい。力を貸してくれないか」
「なにぃ、失踪者?事件性はあるのか」
「多分、ある。早く来てくれ、佐々木君の力が必要なんだ」
「お前なぁ、お偉い小説家先生だか知らないけど、公権力は乱用する為にあるんじゃないの。それに俺は休暇日」
「…わかってる。しかし、公にはできないんだ。子供が誘拐されたかも知れないんだ。警察に届ければ命がないかも知れない。だから佐々木君の力が必要なんだ」
「誘拐だぁ?大事じゃねぇか、んなら初めから言えよ。今から、そっちへ向かう。場所はどこか?」
康介は賢三に屋敷の場所を教えた。一時間経っただろうかぐらいに、賢三は康介達の居る屋敷に到着した。
「誘拐されたにしちゃこの屋敷の人間は平常心をよく保っていられるな」
これが屋敷に初めて足を踏み入れた賢三の感想で、賢三は康介にそう言おうとしたが、賢三の目に都美子が入った瞬間がまさに彼が恋に落ちた瞬間だった。
「おい、聞いてるのか」
「あ、ああ」
「だからご主人の喪が明けない内に夫人の息子の孝介君は誘拐されたらしい」
「ああそうか」
「センセ、本当にこの人警察の方?」
クスリ、と都美子が笑うと賢三は少しだけ顔を赤くし自分は本当に警察官であります、といい警察手帳を見せた。
「まぁ、センセったらぁ顔が利くんですね。意外と」
「意外とは失敬だなぁ」
「そんなことより早く状況を教えろよ、先生さんよぉ」
康介はことのあらましを賢三に教えた。
「ふーん。成る程」
「先生さんは屋敷の奥さんにゾッコン、ですか」
「おい、何を言ってる」
「はぁ?だってお前さんよぉさっきから何かとつけて咲子さん咲子さんって、咲子さん目線じゃねぇか」
「まァ、センセったら」
「咲子さんが今、1番辛い状況なんだぞ」
「ま、どっちにしろ今日中にその愛人っつーのを捜さないとな」
「手分けして当たろう」
「いや、聞き込みなら俺一人でやる。2、3時間で終わるだろ。それに、センセみたいな素人がいちゃ面倒だしよ」
「…わかった。しかし、待つだけしかできないのは…」
中々歯切れのよくない康介に賢三は、何かあったらすぐ知らせるからよ、と言い屋敷を後にした。
「さぁて、センセ、これからどうします?手帳にあった住所は先のケイサツの方があたってくれるんでしょう?」
「あぁ。…咲子さんの様子はどうだろうか」
「センセ、は咲子さんに夢中のご様子なこと」
「き、君までなんて事を言うんだ」
それはそうと、俊明さんは先生の心配通り咲子さんの様子をみてきてくださる?」
「わかりました…何かあればすぐ呼んでください」
と、俊明は咲子のもとへ向かっていった。