「咲子さん、大丈夫ですか?」
「ええ…情けないわ」

咲子は結った長い髪にそっ触れると伏し目気味にそう力なく言った。

「先生も、そう思われますわね。母親の私がしっかりしてないとって」
「そんなことは…」
「いいんです。血のつながりがなくとも私はあの子の母親。孝介の母ですわ」
「血のつながりが、ないって?」
「あら、先生は、都美子さんから何もお聞きになってなくて?私、孝介の本当の母親ではないんです…」
「都美子君」
「センセ、もし知っていたら何ができて?」
「それは…」
「ほうら」

それとこれとは話が違うと康介が主張しようとした時、咲子が休んでいる部屋のドアがノックれた。

「おい、康介。話だ…よければ都美子さんも」
「何か分かったか」
「彼女…咲子さんの旦那は最後に妾の家で発見されたみたいだ」

杖を持った白髪の女性に愛人がいた、と言われて、愕然とした表情になった咲子を康介は思い出した。知らされてはなかったのだろう。

「ああ。しかも相当惚れ込んでて子どもまで産ませたらしい」
「その子は」
「んなもん知らん。だが、行方不明になってるな」
「じゃあ、孝介君は大事な跡取りのはずだろ?鐚一文出さないとはどういうことだ?」
「疑ってるですヨ」
「な、何をだって言うんだ」
「センセはホント鈍いですわ。俊明さんと咲子さんの仲を、に決まってるじゃありませんか」
「は、バカなことを」
「ここまで献身的に咲子さんを支えてきたのは俊明さんですよ、それに、書斎で咲子さんを抱きしめてる俊明さんを見たって召使の方も何人もいますわ」
「その人たちは信用できるのか」
「大奥様に恐れをなして、次々と辞めていったんですもの、そりゃ皆黙りますわ」

康介は愕然とした。話はこうだ。昨年、夫を妾宅で亡くした咲子とその頃急に子どもを持ち、それを俊明との隠し子だ、と噂をしたメイド等々使用人が大奥様、杖を突いた女性に、大金を持たされて、辞めていったという。

「ある日突然連れてきた子を孫と思えるかい、どこの馬の骨とも思えないのに。探偵さんがた、どうせ金目当てなんだろう…さ、帰った」

と分厚い袋を康介たちに差し出してきた

「母さん、いい加減にしてくれないか」
「俊明、あんたがこの家を継ぐべきなんだよ。あんな女が連れて帰ってきた子どもなんて信用ならないね!」

そう言って、老女はまた消えていった。

「申し訳ありません。先生方には、このことをどうしても解決していただきたいんです。お願いします」
「俊明さん…頭を上げてください、僕たちにそんな力はありません」
「センセッ、咲子さんを見捨てになるおつもりなんですか?」
「都美子君、そんな、誘拐事件だなんて、僕ほ力でどうにかなるものじゃないだろう」
「では、先生はこの事件が世間に公表されて色々な醜聞にされて咲子さんがあらぬ疑いをかけられてもよろしいのですね」
「そ、それは…」
「センセ、どっちなんです?」
「…解決できるかわからないが、努力はする」
「あ、ありがとうございます」