遥は本当は百合子と帰りたかったが、都幾川と付き合ってるという噂のせいでなかなか実現しなかった。その噂が広まった時、百合子からのメールで、「おめでとう。これからは遥も都幾川君と帰りたいとおもうから、私、岡部君と帰るから、大丈夫だよ〜」とあった。岡部君、それは遥の目下最大の敵である百合子の彼氏なのだ。遥はそのメールにがっかりした。遥は少なくとも、百合子がなんらかの嫉妬的な感情を伝えてくることを期待していたからだ。遥はつかさず「百合子と帰りたい〜」と返信したが、「都幾川君は人気あるから、独占できる時は独占しなさい(笑)」と返ってきて、遥は少し寂しかった。都幾川というと、私と一緒に帰ることが当たり前の如く、毎日のように私を正門前で待つ。そして手を繋いで帰る。それが習慣になっていた。

「遥、今度デートしようよ」

下校中、いつものように手を繋いで帰っている最中に、圭佑が言った。緊張気味なようで握っていた手に少し力が入る。

「は?」
「だって俺達って恋人じゃん。デートくらいしようよ」
「興味無い。てかテスト近いから無理」
「一緒に勉強してもいいよ」
「無い無い。大田さんに教えてもらうから」

遥はため息をつく。道が二股になってるところで都幾川とはサヨナラだ。遥は都幾川の顔を見ずに手を解き家路についた。圭佑はほんの少し動揺していた。彼女を切らしたことは無いのはもちろん、デートの誘いを断られたことが無いのだから。遥にも少しだが、陰湿な女共からの嫌がらせから、陰ながら守ってきたし嫌われる要素が自分では全く思いつかないからだ。どうしたら今井遥の心を掴めるのか、全然わからなかった。彼女は俺のこと、好きじゃないんだったら好きにさせよう、と思った。

都幾川はいい奴だと遥は思う。けれど恋愛感情は抱けないこともわかってる。明日は久しぶりに百合子と遊ぶ約束をしている。カレンダーのハートマークが自己主張している。それを思うと遥は都幾川と下校するという苦痛を我慢した甲斐があったと思うのだった。

「久しぶり!百合子と会えて嬉しいな」
「遥は大袈裟なんだから」

遥は百合子が岡部君とのデートより私を優先してくれたことが嬉しかった。遥たちの住んでる所は結構な田舎で、遊ぶとなるとカラオケ店かショッピングモールぐらいしかない。今日はショッピングモールで遊ぶ約束をしていた。

「ところで、都幾川君とは仲良くしてるみたいだね」
「そうかな。でも、彼と付き合いだして他の男子から告白されなくなったから、良いかも」
「遥は告白されても全員振ってたもんね」
「だってタイプじゃないし」
「都幾川君はタイプだったんだ」
「違うよ〜。お互い好きで付き合ってるんじゃないから。人避けのために付き合ってるんだもん」
「あ、でも本当に付き合ってるんだ。人避けのためでもいいんじゃないですか」
「うん。岡部君とは仲良くやってんの?」 「仲良くやってなかったら今頃別れてるよ」
「そうなんだけどさ」

遥は百合子の素っ気なさに時々傷つく。でも、そんな百合子が大好きだから顔にも出さないし、言葉にもしない。