「はあ」
「……」
「ねえねえ、百合子明日暇?」
「ごめん、先約」
そっか、そうだよねー…どーせ岡部でしょ。と遥は内心毒づく。いいなー岡部君はいいな。男っていうだけで得してんじゃん。でも、顔には出さない。
「そっか、りょーかい」
「遥、手紙」
「え?」
「都幾川から預かったん」
「あ、そう」
遥は百合子からうけとった手紙を見た。ごめん、電話に、せめてメールください。都幾川。と書いてあった。遥はその手紙を制服のポケットに入れると、気まずそうに百合子をみた。
「遥、いったい何日無視するつもりなんでしょうか」
「…」
「ま、仲良い方がいいじゃん」
「だって…」「うん」
「だって…」
だって本当のこと言ってきたんだもん。と言いたい。言いたいが言ったら『本当のこと』がなんなのかを話さないといけなくなる。百合子にだけは、知られたくない。時々、気づいて! 知られたい!とも思うが、本当にそうなったら悩むのは百合子だし、彼女を苦しめるのは私はしたくないからだ。言いたくない。、と遥は考える。でも、都幾川は簡単気にそのことを口にしそうになった。私がこんなにもジレンマで悩んでいるのに、彼は軽々しく言いそうになった、それが許せない。
「何があったか知らないけど、許しておやりよ」
「百合子…」
「手紙を渡すとき、泣きそうな顔してた」
「…わかった。電話に出る。メールも返す」
「うん」
「ありがと」
「こんにちは」
「岡部君、こんにちは。百合子、ありがとう。またメールするね。気を付けて」
「うん」
百合子は岡部が迎えにクラスまできて、一緒に帰って行った。岡部君の笑顔。殺意しかわかないが、百合子の満足そうな顔。それを見てしまえば、、ほかのことなんでどうでもよくなる。放課後の教室には私一人。さて、そろそろ帰ろっと思って遥は椅子から立ち上がった。
「ちょっと、今井さん話があるんだど」
「え…」
遥が当惑している相手は、隣のクラスの、確か、横田とかいう女の子だ。バレー部で背が高くて綺麗な顔立ちをしている。遥とはタイプが違う感じだ。全く接点がないし遥は不思議な気持ちで横田さんを見ていた。彼女は美人だけどでも百合子には敵わないな、と考えていたら、きつい平手打ちが飛んできた。
「いい加減にして!そうやって人の心を弄んで、楽しい?」
「は?何のことよ」
「しらばっくれて、そうやって佳祐のことも騙してるんでしょ」
「は?意味わかんないんだけど」
「別れなさいよ」
「え?」
「佳祐と別れなさいよ!」
「ちょっと待って、私好きでもないんだけど」
「は?なにこの女」
横田さんが遥にもう一度平手打ちをしようとして、手を振り上げたが、その手は宙で止まった。
「ちょっ、佳祐!?」
「やめろって」
「放してよ、いいから放して!」
「いい加減にしろ!!お前は俺の只の元カノっていうだけで、もう関係ないだろ!」
そう、強い口調で言った都幾川の顔は遥が今まで見てきた中で一番怖い顔をしていた。その口調に折れたのか、横田さんは悔しそうに体の力を抜いて、帰って行った。遥はジンジンしている頬を手で抑えながら、そのやり取りを見ていた。
「ごめん」
「…なんで都幾川君が謝るの」
「…痛くない?」
「痛いよ」
そうだよな、と佳祐は力なく笑った。そして、ごめんもう二度とこんな目には遭わせないからと言った。